思考ノイズ

無い知恵を絞りだす。無理はしない。

映画「アルプススタンドのはしの方」

とっ散らかるだろうと思いつつ、書く衝動に駆られる作品に出合った。

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この手の作品をみるモチベーションとして、蓋をしてその蓋の場所も忘れてしまったぐらいの青春の黒歴史をほじくり返したいという思いなのかな、と思う。

この手の作品はすでに先人がいて、2012年に上映された「桐島、部活やめるってよ」がまさにそれであった。この作品には衝撃を受けたが、よくよく考えていくうちに劇中でイケてないグループ(スクールカースト下位)とされていた前田君(神木隆之介)はすでに輝いていたことに気づいてしまう。好きなことを貫いて、好きなことを一緒にやる仲間がいるなんて、それはもはや青春の勝ち組じゃね、ってこと。自分の黒歴史のかさぶた剥がそうとしたら、そんなかさぶたはなかったでござる、ってオチになってしまった。 まあだからこそ、あの映画の最後はリアル勝ち組の菊池(東出昌大)との逆転がカタルシスになるのだけれども。

この「アルプスー」の登場人物たちは冷めていて空虚なところから始まる。こっちのほうがまだ自分の過去ともがっつり投影できる。

以下、見た人向けで、ネタバレも入ります。

高校生4人が、半ば強制的に参加させられている甲子園のアルプススタンドの隅で行われる会話中心のストーリー。高校演劇が脚本なので、なるほど演劇の作りがベースになっている構成というのもよくわかる。

この4人は最初、冷めた気持ちを持っていて応援もいやいや参加させられていて、4人の間柄もそれぞれの距離感がありギクシャクな感じから始まる。共通するのは「しょうがない」という、あきらめの気持ち、熱さを表現したり、結果が伴うかも保証がないことに頑張ったりすることをダサいとするプライド。そんな4人がそれぞれ組み合わせを変えながら少しづつ本音で話をして、野球の展開と呼応するように盛り上がっていく。

桐島ー、ではからっぽと気づいた菊池(東出)が感化されていて、どう行動したのかはぼかしているかたちだったが、アルプスー、ではからっぽの4人が感化されていく様を伏線を回収しながらわかりやすく盛り上げていくので見てるほうも気持ちのブーストがかかる。 ちなみに桐島ーは、別の切り口で上手に盛り上げているので、けっして盛り上がらないわけではないとフォローをいれておく。

おお、僕のかさぶたがここにあったぞ。まさにからっぽで持たざる者だった高校生活。そんな僕にこんな世界線があったのならと想像を描きたてられる。

今の自分が胸を張って言えるのは、たとえ結果が伴わなくても、なにかに思いっきり打ち込んだり、頑張ったりすること自体は、人生を充実させる。その充実したいう体験や、打ち込んだ経験は、たとえ最初に目標に到達してなかったとしても、自分自身が社会の中に居場所があることを認めることの役に立つ。

この手の話はPIXERの映画が得意で、僕が好きなのはシュガーラッシュだ。主人公のラルフは、正義のヒーローをあこがれるゲーム中の悪役。彼は最後正義のヒーローにはなれないが、自分の役割、居場所を見つけることができる。それはまさに、ヒーローを目指してもがいたことにより気づいたことなのだ。

アルプスー、も後日譚で4人が充実しているところから、行動に移したことがうかがえる。それは冷めていては得ることができなかった、アルプススタンドの端っこでおきた奇跡なのだと。

いい作品に出合えて、見てよかった。僕のかさぶたを剥がしてくれる作品、もっと見たい。からっぽだった青春時代が意義あるものにするのはその思い出を糧に今何をすべきかだ。そのモチベーションとなる作品を欲している。

ちなみに、久住さんの隣にいた、小生意気な小柄な吹奏楽部の女の子、あんな雰囲気な子がちょっと好きだったりするんだけど、あの子がラストでのあの演出はすごい心に刺さってしまい、あのシーンがフラッシュバックすると涙腺が緩んでします。 あの子も、またいろいろウチで抱えるものがありーの、爆発しーのだったんのだなーと。脇役に感情移入ができてしまう、よくできた映画です。